学校現場へのiPad導入は進むのか
こんにちは。日本時間の3月28日午前0時より、Appleがシカゴで教育機関向けイベントを行いました。
新型のiPadの発表もありましたが、今回の発表の意図は「学校でもiPad使ってね」ということにあります。
コンピュータ分野における学校教育市場は、Microsoft、Google、Appleがしのぎを削っている状態です。
僕自身もイギリスで学校のコンピュータ活用、ICT教育の推進に関わっているので、関心を持って発表を観ていました。今回はその立場から、Appleの各発表内容を振り返っていきたいと思います。
発表内容をおさらい
今回のAppleの発表内容のうち、新しいものについてまとめると下記の通りです。
- 新型iPadは価格据え置きでパワーアップ。Apple pencil対応
- LogicoolからApple pencilの半額の「Crayon」発表
- 学生ならiCloudが200GBに
- iWorkが手書き対応に
- ClassroomがMacアプリ対応
- School Workで宿題管理
- Apple Teacherプログラムによる教員の技能向上
- Everyone can createの提供
勤務校の状況
僕の勤務校では、各教室にWi-Fiを入れる検討をしています。生徒はアクセスできませんが、Wi-Fiブースはあるので、実験的にiPadを複数台、共有用に購入し、Apple School Managerで生徒のIDを作成完了しています。生徒たちはWi-Fi環境下ではスムーズにログインして使用できているので、教室にWi-Fiが入れば、「授業でiPad配布」→「Classroomで管理しながら授業で利用」→「授業後に回収」という形で、iPadを使った授業が展開できる状態です。
それでは、今回の発表を順番に見ていこうと思います。
1.新型iPadは価格据え置きでパワーアップ。Apple pencil対応
価格据え置きでスペックアップは嬉しいです。Apple pencil対応は、後々のことを考えたら必要になるかもしれません。でも当面は必要ありません。高価だし、生徒たちはすぐなくしたり壊したりするからです。電池を個別に充電しなければならないのも面倒です。
したがって、「Apple Pencilはいらないけど、価格変わらずバージョンアップだから歓迎」です。
2.LogicoolからApple pencilの半額の「Crayon」発表
生徒用にはApple pencilよりいいと思います。iPad Proではないので、こだわる必要もありません。ただ、やはり今すぐには使わないとおもいます。指で十分。
美術などで使えるじゃん、と思うかも知れませんが、新しいiPadもCrayonも筆圧検知不可。繊細な描写には対応できません。
3.学生ならiCloudが200GBに
おそらく個人用Apple IDのiCloudストレージのことを言っていると思うので、共有iPadの環境には関係ないですね。もし共有用iPadでログイン用に利用する@appleid.〇〇の各アカウントで200GB使えたらめちゃくちゃすごいですが、それはないでしょう。
4.iWorkが手書き対応に
Apple Pencilを使わないのであまり意味はありません。
5.ClassroomがMacアプリ対応
僕はMac持ちなので嬉しいです。iPadでは処理能力に不安があるので、Macで管理できるのだと安心感があります。
6.School Workで宿題管理
サードパーティの管理アプリを導入検討していたので、無料である程度使えるのであればありがたいです。システムの導入は、とにかく予算がキモです。無料だと上司も説得しやすいです。導入してみて、利用に不便を感じるようなら、有料のサードパーティのものを検討すればいいので。
ただし、「iPadで宿題を提出させ、管理する」ことはできないかな。私の勤務校ではiPadは授業時間後に回収します(持ち帰る訳ではない)。宿題をやらせる時間はありません。生徒一人ひとりに渡して、文房具の様に毎日持って来させる方法もありますが、セキュリティ、インターネット利用、破損などに不安なことが多いので、回収します。
7.Apple Teacherプログラムによる教員の技能向上
皆前向きにやってくれるかなあ(笑)
8.Everyone can createの提供
発表だけではいまいち未知数ですが、おそらく日本の教育環境には適さないでしょう。クリエイティブなことにかける時間も、その教え方も、評価の仕方もありません。
Appleの教育向けサービスの方向性
今回の発表では、Appleはクリエイティブ路線で行きたいのだということがはっきり伝わってきました。Microsoft、Googleに対するAppleの優位性は、「コンピュータらしくない」コンピュータのiPadと、iOSで動作する無数の高品質なアプリたちです。iPadを活かすApple Pencilをつかったこうしたクリエイティブ路線はありだと思います。
教育現場としては
アメリカはさておき、日本の教育現場では今回の「クリエイティブ路線」は大きなインパクトにならないと思います。
「どうやって使ったらいいかわからない」という戸惑いが(これまでもありましたが)さらに増えることでしょう。
日本の教育は、生徒たちが、例えば社会や国語でクリエイティブ性を発揮できるような授業体系、評価制度にはなっていません。
日本は遅れているといえばそれまでですが、現状私たちがiPadを利用する用途は
- 授業内の「調べる」「まとめる」「発表する」といった作業を効率化したい
- 言葉や教科書では伝わりにくいものを伝えたい
- 個人学習を効率化したい
といったことです。「手軽に使えるコンピュータ」「豊富な学習系アプリ」を重視しているのであって、クリエイティブさではありません。
その意味では、今回の発表はiPadの新たな可能性を見ましたが、今の日本の教育現場に適した実践向きではないです。
また、iPadの利用は学校のインターネットとWi-Fiの環境に依存しています。例えばiPadを学校の備品として購入していく場合、「共有iPadとして設定する」というのが正しい選択ですが、それぞれが自分のIDでログインできるようになるためには、School Managerの設定(=MDMとの契約)と、いつでもインターネットにつながるWi-Fi環境が必須となります。
そのような学校は実はそれほど多くありません。「Wi-Fiが校内に張り巡らされている」状態は、セキュリティ上、生徒にパスワードを知られてはいけない訳ですから非常に難しい。多くの学校ではWi-Fiではなく有線LANで管理しているのではないでしょうか。
そのような中、無制限なWi-Fi接続を必要とする「共有iPad」は日本の学校環境には適していないと思います。
ここが日本がiPadだけでなく、Google Chromeなど他の教育系デバイスもあまり普及しておらず、いまだにパソコン室でなければコンピュータは利用できないという状況に留まっている理由です。
幸い私の学校はイギリスにあり、ネットに関しては日本より寛容ですから、少しずつ進められる環境にありますが。頑張らねば。
というわけで、今回はAppleの発表をICT教育担当として見て思うことを述べさせていただきました。
それではまた。
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