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日本も「地理」の教育を見直す時代に

日本も「地理」の教育を見直す時代に

高校の新学習指導要領で「地理」が必修化

2018年度より、段階を踏んで、高校のカリキュラムにおいて「地理総合」が「歴史総合」「公共」とともに必修化されることになります。「歴史総合」はこれまでの日本史と世界史の近現代史がひとつになったもの。「公共」は「現代社会」の進化版だと思ってください。

僕は社会科の教員ですが、専門分野は「地理」です。恥ずかしながら、高校・大学時代は専門的に学んではいませんが(背景にある問題は後述)、「地理」を専門としていることに誇りを持っています。ですので、必修化はとても嬉しいです。今から、自ら選択したのではない子達に、1年間で何を伝えようかな、とワクワクしています。

「地理」はヨーロッパでは普遍的な学問

「地理」は素晴らしい学問です。福沢諭吉先生も、有名な『学問ノススメ』序章で、実学(実社会、実生活に必要な学問)の必要性を説き、その一例として地理学をあげています。当時は西洋に倣い、西洋から学ぼうとしていた時代です。福沢先生もきっとヨーロッパで地理を学んだのだと思います。

実は「地理」は、”Geography”として、ヨーロッパでは伝統的で高尚な学問として維持されています。それはヨーロッパが小国の集まりで、この小さな世界で協力したり、過去には戦争したり、現在はまとまろうとしたりと、自国と他国を強く意識しながら発展してきた経緯と、「地理」が強い関連性を持っているからではないかと思っています。

イギリスでも、小学生から高校生になるまで、”Geography”の授業があります(高校は選択制だったと思います)。ヨーロッパなので、知識に偏重した授業ではなく、「なぜそうなるのか」「どうすればよいのか」を考えさせる授業ですが。

こちらの高校を見学に行った時に、貧困についての授業を見学しましたが、貧困の定義からディスカッションが始まったのには驚きました。日本ではアクティブ・ラーニングが注目されていますが、本場ヨーロッパのこうした状況を考えると、もっと根本から考え方を変えないといけないな、と思います。「貧困とはなにか」をディスカッションするなんて発想は僕にはなかったので。

また、小学校1年生の地理で「中国」「南アフリカ共和国」を取り上げていたことも衝撃でした。日本の小学校は1年生は「生活」から始まりますからね。身の回りが分かってきて、それが地域社会に広がっていって、5年生でちょっとだけ世界のことをかじりますが、本格的に世界のことを学ぶのは中学校からです。常に他国と関わってきたイギリスとは別世界だな、と感じたりします。

イギリスの5-7才(Key Stage 1)の教科書

日本ではあまり日の目を見てこなかった「地理」

「地理」と「歴史」の違いは何か、という話を中学1年生にします。初めて社会科が2科目に分かれる学年ですからね。社会をどう観るか、その見方の違いなんだよ、と教えますが、なかなか伝わりませんので、授業を何回かやった後にまたこの話題を出しています。

「地理」は、この社会がこうなっている理由を、「自分が立っている位置(環境)」に求めます。例えば、イギリスの気候では米を作るのはとてもむずかしいです。小麦やじゃがいもなら簡単です。そうすると食文化は小麦、じゃがいもを中心に組み上がっていきます。日本とは異なる文化になりますね。そうすると、米農家を守ろうという日本の政策はこちらではありえないです。当たり前の話をしていますが、その当たり前がどこから来るか、を「自分が立っている位置(環境)」にもとめるのが「地理」なのです。

一方、歴史は時間軸でとらえます。アメリカに戦争で負けたから占領された、という因果は歴史的な視点で説明できます。

こう考えると、「地理」も「歴史」もそれだけでは社会を説明することはできず、両方が必要であることがわかります。ですが、日本の教育(少なくとも高校)では「歴史」が重要視されてきたといえます。

高校の必修科目はこれまで「世界史」と「現代社会」。「日本史」と「地理」は選択必修(どちらかひとつでよい)でした。また、「地理」を履修していても、大学入試では受験科目に設定できる学部は少なく、メリットがありません。そこで文系は「日本史」か「世界史」を選びます。「地理」を最後まで学ぶのはセンター試験で点数が取りやすいから、と考えた理系のみ。私も文系でしたので大好きだった「日本史」を選択しました。この状況は歪と言わざるを得ません。これでは大学まで「地理」を学んで先生になろう、という「地理」の専門教員はとても少数になってしまいます。

やっと重要性が再認識された「地理」

現代の日本が抱える問題を説明するために「地理的な考え方」が重要である、という認識が最近広がってきたと思います。

池上彰さんが、よく番組などで「地政学」という言葉を使っていて、本屋でも「地政学」に関する書籍が増えてきました。

【Amazon】図解 世界史で学べ! 地政学(茂木 誠)
僕も授業の勉強になるのでいくつか本を買って読んでいます。『図解 世界史で学べ!地政学』はプリントして配りやすく、地誌で特定の国を扱うときに余談として取り上げています。

「地政学」とは要するに、「政治(とくに外交など国際政治)を地理的な観点で見よう」とするものです。ヨーロッパでは一般的ですが、日本では一般に浸透してきたのはごく最近ではないでしょうか。そうでないと説明がつかないことが多く起きているからです。日本も戦後70年経っていますが、これまでは日本とアメリカとヨーロッパで考えれば良かったものが、アジア、アフリカ、南アメリカと増えてきていて、また北朝鮮問題など身近に脅威を抱えるようになっています。それらの問題は複雑に絡み合っているので、歴史的な観点だけではどうしても説明しきれない、そのような状況になってきたと感じています。

とにかく、「地理」を専門とする教員の僕としては、この流れはとてもうれしく思っています。

これから世界に羽ばたく若者に不可欠な「地理」

グローバルに物事が動いていく現代社会をとらえるには、「地理」が不可欠です。また、高校の「地理」は非常に原理的で、世界を一貫して見られるような規則や法則を見つけたときに「なるほど!」と感じる体験が多くあります。こうした経験は世界をより身近で親しみやすいものにします。文系だから、必修じゃないからという理由でこれまで学べなかった人々はもったかったですが、これからの世代はそうではないです。そんな若者たちがこれから成長して世界に出ていくと考えると楽しみで仕方ありません。

学習指導要領の変更点については、また後日詳しく話そうと思います。

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